ものづくりをしながら自分たちのスタイルを築いてゆくこと。自分たちが良いと思うものをかたちで示し、世に認めてもらうこと。SHIMOO DESIGNは時代の流れとともに独自のスタイルを昇華させ、はっと息をのむような斬新さと美しさを兼ね備えるものづくりを続けています。
第2回目のインタビューは、「潔く合理的で美しい道具」をコンセプトに、木工家具やテーブルウェアを制作するユニット作家SHIMOO DESIGN。伝統行事「おわら風の盆」で有名な富山県八尾町(やつおまち)に構えるアトリエを訪れ、下尾和彦さん、さおりさんご夫婦にお話をうかがいました。
01 下尾夫婦のものづくり
和彦さんとさおりさんは大学で出会い、共に木工を専攻していました。卒業後、和彦さんは岐阜県高山市の家具工房、さおりさんは八尾町の工務店でそれぞれ修行を重ねた後に、二人でSHIMOO DESIGNとして独立しました。同じ年の1998年工芸都市高岡クラフトコンペティションでは、ミニマムでシャープな置床「うもれぎ」を出展し、見事グランプリを受賞します。この置床はSHIMOO DESIGNにとって原点となる作品になりました。さて、下尾夫婦はどのようなものづくりを目指しているのでしょうか?
ー SHIMOO DESIGNの原点となった置床はどのように誕生したのですか?
さおり:
独立後は生活のために下請けの仕事をしていたのですが、ずっと下請けをしても意味がないので、そこから真剣に自分達らしいものを考え始めました。18年前にグランプリをとった置床は、最初デザインが全然出てこなかったんです。それからしばらく経った頃、わたしが買い物して帰るまでの間に彼が超シンプルなものを作っていて「これいい!すごく気に入った!」と。それをコンペに出したらグランプリを取って、間違ってないかもと思いました。「自分たちのデザインは変な方向には進まないかも」みたいな感じです。
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ー ものをデザイン・製作をする時は、お二人で取り組んでいますか?
和彦:
元となるものはどっちかから出てくるんですよ。そのデザインを育てていく感じですかね。例えばさおりがポンとデザインをして俺が試作を作って、なんか違うとか、これをもうちょっと1mm 上げるとか、もう少し脚を中に入れるとか、そんなふうにブラッシュアップしていく感じです。お互いに「もっとこうしたほうがいい」と言い合いながら。自分たちが欲しいものを作っていきたいですね。それに共感した人が買ってくれればいいと思っています。
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ー SHIMOO DESIGNはどのようなものづくりを目指していますか?
和彦:
どうしてSHIMOO DESIGNにしたかというと、僕達が修行していた頃の日本の家具ってあまりデザインされていなかったですね。一枚板を使って自然の風味であたたかい感じを出して、天板も厚くて脚もどんとしているのが一般的でした。みんな似たようなものを作るようになっていて、これではあまり色がないなと。それよりもう少し、イタリアの家具のようなデザイン性を取り入れた作家がいてもいいのではないか。木の素材に頼るのではなく、木をデザインに活かすというか。木工作家でもデザインに力を入れていきたいなと思っています。最近はデザインをメインとした木工作家として知られてきたのではないでしょうか。
タモ材の木目が浮き立つグレイッシュな木の器「浮様(ふよう)」は、古道具のような雰囲気を漂わせながらも、どこか現代的な趣があり、一度目にすると忘れられない強烈なインパクトを放っています。この独特な風合いは、浮造り*や根来(ねごろ)塗り*といった伝統技法への憧れから生み出されたSHIMOO DESIGN独自の仕上げです。料理のプロフェッショナルからも高い評価を得ており、富山のリゾートホテル・リバーリトリート雅樂倶(がらく)のレストラン「レヴォ」では、この器を使った前衛地方料理が楽しめます。SHIMOO DESIGN最新作「浮様」について和彦さんにうかがいました。
*浮造り:木の表面を擦り柔らかい部分を押し込む事で、木目を浮き立たせて見せるための木工技法。
*根来塗り:下地に黒漆を、上塗りに朱漆を塗り、その上から磨いて下地の黒漆を模様のように見せる塗りの技法
ー 「浮様」はどのように誕生したのでしょうか?
和彦:
10年くらい前に初めてレストランに木の器を納めたのですが、100枚納めたら全部クレームで戻ってきたんですよ。プロにも使ってもらえるような、油汚れに強い木のお皿がどうしても作りたくて、その後いろいろな塗装を試しているうちに*ガラス塗料が見つかりました。ミルクを主成分とした塗料を塗った後に、ガラス塗装を重ねているので、水も油も弾く。これが出来て初めていろんなレストランの注文が受けられるようになりました。
*ガラス塗料:石英ガラスを液状化させた新しい塗料。完全無機質ガラス膜を施すことで、木部の防水防湿性や防虫性に効果がある
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和彦:
これまでは器の上に盛るものを想定しながら木目も目立たないようにと心掛けてきたのですが、今は違うんですよ。自分が好きなように作ってシェフにチャレンジして欲しい。料理に寄りたくないというか。例えばこの木目が料理の邪魔をする場合もあるんですけど、「プロなら出来るはずだ!」とかそんな掛け合いではないけど、それも楽しくて。あえてチャレンジして欲しいなと思っています。
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ー ものを手作業で作る価値をどのように見出していますか?
和彦:
木との一期一会ではなくて、木として作り上げていきたいという想いがあります。自然を頼るのではなくて自分で作り上げていく醍醐味も嬉しいというか。これにも足し算引き算がすごくあって、やり過ぎても説明的になるし、引きどころというのも何だか楽しくて、まるで絵をかいているようです。
ここ5年10年くらいでテクノロジーが発展して、もしかしたら職人もいらない時代になるかもしれない。だからこそ、機械にはできないところにチャレンジしている感じは持っていますね。
潔い直線と柔らかい曲線。下尾夫婦の感性が調和するSHIMOO DESIGNのものづくりは、新たな岐路へとさしかかりました。それぞれの想いをどうかたちとして表現してゆくのか、今後のお二人の動向から目が離せません。また、18年前の置床から一貫している「室礼(しつらい)」というテーマは、SHIMOO DESIGNの代表作である立礼卓(りゅうれいじょく)*へと発展し、さらには空間の表現へとフィールドが広がりつつあります。最後にSHIMOO DESIGNの未来についてうかがいました。
*立礼卓:テーブルと椅子を使って行われる茶道点前の一つの形態
ー SHIMOO DESIGNの結成から18年が経ちますが、お互いに心境の変化などはありますか?
和彦:
今はちょっとずつ変わってきていて、俺は作家になりたくてさおりはデザイナーになりたいんですよ。18年目にしてやっとSHIMOOとDESIGNが分かれてきましたね。もうね、自分が作りたいものしか作りたくないんです。自分で作る場合はとことん追求して、本当に気に入ったものを作れるんですよ。俺は素材を知ってからデザインすることしかできないというか。食えない時代はいろいろなことをさせてもらったんですけど、結局はやっぱり木に戻るのかなって。
さおり:
私は今まで作っていなかったソファーやベンチなどのインテリアを充実させて、もっとSHIMOO DESIGNを家具屋として打ち出していきたい。デザイナーとして何か試してみたい感じです。木では出来ないことを金属など他の素材を使って、自分たちの暮らしに合うものをデザインしたいです。手で作ることも大好きだったんですけど、今は考えるほうが楽しい。デザインを考えて誰かつくり手に形をあらわして欲しい。SHIMOO DESIGNはこのまま続くけど、お互いに独立して別々の仕事もしていくみたいなね。
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さおり:
自分たちのお店が欲しいです。くつろげる場所をつくりたい。SHIMOO DESIGNのものと、自分たちが好きな作家さんのものをしつらえたいです。 お客さんに自分たちの世界観を共感してもらって、商品を欲しいと思ってもらえたら。そんなふうにやっていけたらいいなと思います。
和彦:
わざわざお客さんに来てもらうようなところにお店をつくりたいです。ここを改築するのもありだし。自分たちで空間からプロデュースして、立礼用のお茶室をつくりたいと思っています。立礼用のお茶室とはどんな感じだろう、、、と日々考えているところです。
SHIMOO DESIGN
shimoo Designは下尾和彦、さおり夫妻によるユニット作家。 「潔く合理的で美しい道具」をコンセプトに、 日本の文化や美意識を現代の生活に落とし込むことを目的としています。 そこはかとない懐かしさを感じられる新しい和のかたち。 伝統的な日本様式にちなんだ木製家具や小物は、すべて手作業によって製作され、 さまざまな空間に和のしつらえを取り入れることができます。 1998年 工芸都市高岡クラフトコンペグランプリ 2000年 工芸都市高岡クラフトコンペ審査委員賞 2001年 工芸都市高岡クラフトコンペグランプリ(二度目) 2002年 工芸都市高岡クラフトコンペ銀賞 2003年 工芸都市高岡クラフトコンペ奨励賞 2004年 朝日現代クラフト 招待出品 2005年 松屋銀座 DESIGNER’S CATALOGUE-11 2006年 MILANO SALONE 「ARMANI TEATRD」
http://www.shimoo-design.com/